地下湿地定期便

地下や湿地の生物をただただ愛でる日記

Love!Laboulbeniales!

今回は、最近話題(?)のラブルベニアについてです。

ラブルベニア教信者を増やすために、ラブルベニアの概要を紹介します。

 

[分類]

・広義には、子嚢菌門チャワンタケ亜門ラブルベニア綱(Laboulbeniomycetes)に属す種を指す

・学名はフランスの昆虫学者Joseph Alexandre Laboulbene氏に因む(*4)

・模式種はLaboulbenia rougetii Mont.&C.P.Robin, 1853.(*4)

[形態]

・菌としては珍しく極度の個体性を持つ

・菌糸体は作らない

・主な部位として、子嚢殻(Perithecium), 付属糸(Appendage), 托(Receptacle), 足(Foot)からなる

・胞子はゼラチンに包まれた2細胞

[生態]

・生きた節足動物の体表のみに寄生する(*2)

・宿主の大半が昆虫(特に甲虫)である(*2)

・顕著な種特異性を持つ(*5)

・部位特異性、性特異性を持つ種もいる(*6)

・宿主への影響は限定的である(一部の種では寿命および繁殖率の減衰等が知られる)(*2)

[感染]

有性生殖を行う(*7)

・ほとんどの種は雌雄同株だが、一部に雌雄異株の種が知られる(*7)

・胞子の放出は緩く、宿主成虫の生殖や集団越冬など物理的接触で水平伝播する(*8)

・シロアリやゴキブリ、ハサミムシに寄生する種では、例外的に幼虫への感染が知られる(*2)

[記録]

・世界で3目5科152属2300種以上が知られる(*1)

・日本からは2目4科40属171種(変種含む)が記録されている(*3)

※シロアリに寄生するLaboulbeniopsisについては所属する目が定かでないため含めていない

※記録は2023年1月3日時点のもの

 

私は種分化大好き人間なので、初めは宿主特異性に惹かれてラブルベニアの虜になりましたが、他の昆虫寄生菌と異なり宿主を殺さないという点も大好きです。

以下に、私が過去に撮影した一部のラブルベニアを載せますのでご査収ください。

 

・Laboulbenia brachionychi on クロケブカゴミムシ

・Laboulbenia fasciculata on キアシヌレチゴミムシ

・Laboulbenia borealis on ヒメミズスマシ

・Rickia ancylopi on ヨツボシテントウダマシ

・Dioicomyces sp. on ヨツボシアリモドキ

 

参考文献

*1: D.Haelewaters, W.V.Caenegem, A.D.Kesel, 2022. Hesperomyces harmoniae, a new name for a common ectoparasitic fungus on the invasive alien ladybird Harmonia axyridis. Sydowia, 75: 53-74.

*2: E.W.Riddick, 2006. Influence of host gender on infection rate, density and distribution of the parasitic fungus, Hesperomyces virescens, on the multicolored Asian lady beetle, Harmonia axyridis. 15pp. Journal of Insect Science, 6: 42.

*3: 勝本謙, 2010. 日本産菌類集覧. 1177pp. 日本菌学会関東支部.

*4: Mont. & C.P. Robin., 1853. ENDOCLINES (sous-division des Clinosporés), Léveillé. ENDOCLINEI. Histoire naturelle des Vegetaux Parasites (Paris): 621-661.

*5: R.K.Benjamin, 1965. Study in specificity: minute fungi parasitize living arthropods. Nat. Hist., 74: 42-49.

*6: R.K.Benjamin & L.Shanor, 1952. Sex of Host Specificity and Position Specificity of Certain Species of Laboulbenia on Bembidion picipes. American Journal of Botany, 39(2): 125-131.

*7: R.Thaxter, 1896. Contribution towards a monograph of the Laboulbeniaceae. I. Mem. Am. Acad. Arts Sci., 12: 187-429.

*8: T.E.Cottrell & E.W.Riddick, 2012. Limited Transmission of the Ectoparasitic Fungus Hesperomyces virescens between Lady Beetles. 7pp. Psyche, 2012.

 

河川間隙水掘削記録

2022/2/24

Twitterをご覧の方はご存知だと思いますが、私は今年に入ってから、とある採集方法を精力的に行っています。それは、河川敷の掘削による河川間隙水性生物の観察です。

本流の水際から5~20m程度の河川敷を掘削すると、大抵の場合深さ50~100cm前後で間隙水が出てきます。そこを目の細かいネットでろ過し、回収した残渣から顕微鏡下で生物を見つけ出すのです。

何が目的かと言いますと、やはり最終的には地下水生ゲンゴロウの採集です。現時点で日本においては2科3属13種の地下水生ゲンゴロウが記録されており(今後劇的に増えそうですが…)、いずれも井戸から採集されることが殆どのようです。しかし原理的には河川間隙水に生息していることも十分に考えられ(原理的というが、ほぼ私の妄想)、掘れば採れるはずなのです!

またこれは生物屋さん全員に言えることかもしれませんが、私はとにかくわけのわからない生物を見ると、ワクワクしてアドレナリンがドバドバ出てくるのです。その点、地下水に住む生物はどれも奇想天外な恰好をしていて、未知の生物に出会う、というのも目的の一つとなっています。

しかし掘っていくうちに、よく知られた生物の幼虫なども頻繁に観察でき、河川間隙水で生活史の一部を営む非地下水生生物の生態の観察、という面もどんどん大きくなっていきました。

ということで今回は、今までの河川敷掘削で見られた生物のリストと、一部生物の写真を紹介します(今後も随時追加予定)。

 

ウシオダニ科Halacaridae gen. sp.
ササラダニ亜目?Oribatida sp.
コバンダニ科Axonopsidae sp.
キヨミズダニ属Bharatalbia sp.
アオイダニ属2種Lebertia sp.
分類不明ダニ4種
イトミミズ科?Tubificidae sp.
メクラヨコエビPseudocrangonyx sp.
コザヨコエビLucioblivio kozaensis Tomikawa, 2007
ムカシエビ属Bathynella sp.
カワリムカシエビ属Allobathynella sp.
ソコミジンコ目Harpacticoida sp.
ケンミジンコ目Cyclopoida sp.
カイミジンコ目Podocopida sp.
ガムシ科幼虫Hydrophilidae sp.
ムクゲカメムシ科幼虫Cryptostemma sp.?

ハネカクシ上科幼虫Staphylinoidea sp.
ハネカクシ科Staphylinidae sp. (コンタミ?)

マメシジミ/ドブシジミ死殻
巻き貝死殻
扁形動物?
分類群不明

 

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ウシオダニ科&ササラダニ亜目

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分類不明ダニ

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メクラヨコエビ

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ムカシエビ属&カワリムカシエビ属

 

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ガムシ科幼虫

 

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扁形動物?

 

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謎生物

 

※河川事務所より掘削許可取得済

※無許可での掘削は河川法27条1項に違反しますのでご注意ください

 

参考文献

https://www.eonet.ne.jp/~suiseikontyu/mizudani.html
https://www.naturamediterraneo.com/forum/topic.asp?TOPIC_ID=330403

・富川光・森野浩, 2012. 日本産ヨコエビ類の分類と見分け方. タクサ 日本動物分類学会誌, 32: 39-51.

・上野益三 編, 1974. 川村 日本淡水生物学. 760pp. 北隆館.

地下性昆虫まとめ(2021,X~2022,II)

昨年末に結局ブログを更新できなかったので、遅ればせながら前回の更新から今までに見た地下性生物のダイジェストです。

 

2021/10/02

最近探し回っている某Trechiamaを求めて相変わらず某山地へ。道なき道を2時間歩き続け染み出しを掘ってみると、ものすごい密度でケムネチビゴミムシがいたため、期待を持って深く深くに掘っていくと…

・タカオチビゴミムシAgonotrechus paradoxus (Ueno, 1981)

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探していたTrechiamaではなかったのか、という絶望はありましたが、かなり貴重な記録だということが分かったので、現在報文を書いています。今年中にはどこかに投稿します!

 

2021/10/25

前日の採集で同行していただいた方々との話に上がった、某マイナー洞窟へ。以前にも行って全く生物感はありませんでしたが、「いない」という証明も必要。洞内の石という石をめくっていくと、一つの支洞の石下に赤い虫が鎮座していました。

・チンチロメクラチビゴミムシKurasawatrechus chinchiro S. Ueno, 1974

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全然期待していなかったので、思いがけず採れてしまってとても嬉しかったです。

そして、近くにあったゴミの裏に、小さな小さな赤い粒が…

・メナシタマキノコムシ類

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日本ではメナシタマキノコムシ属Typhlocolenis に属す3種が記録されているようですが、この洞窟では記録がありません。そこで後日追加個体を採集して解剖したところ、案の定ヤバい結果が出たので専門家の元へ送りました。結果が楽しみです。

 

2021/11/3・6

この日は某文献でJujiroaの記録がある洞窟へ。

まずは入口付近から大量のメクラヨコエビたちが出迎えてくれます。

・推定キョウトメクラヨコエビPseudocrangonyx kyotonis Akatsuka & Komai, 1922

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おそらく写真の個体は交尾前ガードをしているものだと思われます。ヨコエビの類は、脱皮直後にしか産卵しないメスを、オスが交尾前に抱きかかえてガードし、メスの脱皮後に交尾するらしいのです。

そして道の端にあった木の板をどけてみると…

・ヨロイダニ科?Labidostomatidae gen. sp.

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ダニの多様性は本当にすごいもので、最近の自分的急上昇生物です。

そして出口に近付き諦めかけたその時!

・ヒゲナガホラヒラタゴミムシJujiroa imunada S.Ueno, 1955

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あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁかっこいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ

これはもう言うことがありませんね。至高の地下生物です。

 

2021/11/15

朝に立ち寄った洞窟が芳しくなかったので、赤ダルマガムシを探しに某山へ。

沢は有機物が多すぎてダルマガムシ向けではなく、山も針葉樹ばかりだったが、一部にあった良さげなガレ場で何の気も無しに掘っていると、赤い虫が走り出した!

・タカオチビゴミムシAgonotrechus paradoxus (S. Ueno, 1981)

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カッコイイのは言わずもがな、我が県では初記録であるので大変嬉しかったです。

 

そしてタカオチビゴミムシの追加を狙って掘り進めると、ゆっくり歩く、小さくて赤い虫が…

Kurasawatrechus sp.

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この周辺は本属の記録が全く無いため、未記載の可能性がとても高いです。

 

2021/12/26

この日は親戚の家に行った帰りに非観光洞窟へ。

越冬に来ている生物ばかりであまり洞窟性生物が見られない中、ふと石下の白い物体が気になりました。よく分からないけれどヤバそうであるので撮影してみると…

・無眼ベッコウマイマイ

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面白い生物がいるものだなあというくらいに思って専門家の方に相談させていただくと、更なる専門家を紹介され、サンプルを郵送。すると、あまり詳細については書けないが、驚くべき結果が返ってきた。現在、報文を執筆中。

 

2022/1/1

私が抱えている未記載のKurasawatrechusに近縁であると思われる某種を採集するため、何度目かのアタック。

すると、前日の雪で地下水位が上がっており、普段は乾燥しきっている洞内が湿潤に。

そこで虱潰しに小石を除けていくと…

・某メクラチビゴミムシKurasawatrechus spelaeus S. Ueno, 1958

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Kurasawaの中でもかなり大きくてカッコいい。新年早々幸先がよい。

 

2022/1/15

今日はとあるチビゴミ戦士のご案内で某洞窟へ。

まず洞口を探す時点で迷子になりそうな道なき道を進まねばならず、洞内も一歩間違えれば大怪我をしそうな急斜面。

しかし地底に着くと水平な砂利の層が広がっており、石を引き抜きながら生物を観察してみると、そこには小さな小さな赤い生物が…

リュウガシメクラチビゴミムシKurasawatrechus ryugashiensis S. Uéno, 1988

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普段地元で見るKurasawaよりかなり小さく、何度か採り逃がしてしまうほどだったが、これはこれで可愛い。

 

2022/2/13

いくつかの課題を残している某洞窟へ。

すると、見かけないクモが石の下に…

・ホラヒメグモ科

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なぜか分からないが、採集しておかないと後で後悔する気がしたので採集しておいたところ、Twitterで専門家の方からレスポンスをいただきお送りする流れに。その結果、まさかの未記載種だったようで、こちらも出版が待ち遠しい。

 

参考文献

・Hoshina H.& S. J. Park, 2020. New record of the genus Typhlocolenis Hoshina, 2008 (Coleoptera, Leiodidae) from South Korea with a key to the species. ZooKeys 991: 129–136.

・富川光・森野浩, 2012. 日本産ヨコエビ類の分類と見分け方. タクサ 日本動物分類学会誌, 32: 39-51.

・Ueno, S.-I., 1980. The anophthalmic trichinae beetles of the group of Trechiama ohshimai. Bull. Natn. Sci. Mus., Tokyo, (A), 6: 195–­274.

・Uéno, S.-I., 1981. A remarkable new trechinae beetle found in a superficial subterranean habitat near Tokyo, Central Japan. J. speleol Soc. Japan, 6: 1-10.

・Uéno, S.-I., 1974. The Kurasawatrechus (Coleoptera, Trechinae) of the Mino Highlands and the Adjacent Areas, Central Japan. Bull. Natn. Sci. Mus. Tokyo, 17(3): 193-204.

チビゴミウェーブ

2021/9/23

最近チビゴミウェーブに乗っているので、このまま採れるのでは?と思い、奥田(2014)で混生する場所が指摘されていた2種のTrechiamaを狙いました。

報文中に書かれていた内容に沿って登山道(?)を進んでいきますが、いまいち正確な場所が分かりません。そこで、諦めて違う道を車で進むことにしました。

すると、あまりコレといった場所も無いままに道が崩れていて通行止めになってしまいました。そのためUターンして引き返しながらいくつかの枯れ沢を探していきます。

数個目の沢に来た時、何やらチビゴミの雰囲気を感じたので少し本気を出して掘ってみました。しかし、やはり何も出ません。コムカデやハサミコムシは出てもゴミムシの類は全く出ないのです。

待っていた母にも急かされたので諦めて立ち去ろうとしました。しかしどうしても諦めきれず、最後の一掘りで思いっきりクワを振り下ろしてみました。

すると植物の根と石の隙間から赤い虫が!!!

・ヤツクサメクラチビゴミムシTrechiama (Trechiamaintermedius S. Uéno, 1980

 

残念ながら♀でしたが、チビゴミらしく真っ赤な体で美しい種です。

狙っていた種の片方を無事捕獲できました。

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この勢いで、少し下流側にあった路傍の土砂崩れを崩してみます。

あああ!!!

・サカウチメクラチビゴミムシTrechiama (Trechiamaiwasakii S. Uéno, 1988

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目的のもう片方も出てきました!

地下性傾向が前種より低く、痕跡眼が発達して体色も濃いですが、こちらもカッコいいです。

 

満足して帰路に着いたのですが、少し気になって、道中にある某Trechiama産地を訪ねました。

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ここは母の日に母が偶然見つけたohshimaiTrechiamaの未記載地です。

追加を得たかったというのもありますが、無事な生息を確認したかったので立ち寄りました。

すると、前回あれだけいたチビゴミたちが全く採れません。どうしたことかと片っ端から石をひっくり返すと、やはりいました!

Trechiama sp

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しかし、心なしかどこか様子が違います。

交尾器を抜いてみると、その違和感の正体が分かりました。左が5月に採集した個体の交尾器、右が今回採集した個体の交尾器です(目盛: 0.25mm)。

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なんと前回はohshimai系だったのが、今回はsuzukaensis系(又はnagahinis系?)に変化していたのです!

驚きました。メクラチビゴミムシは種分化が激しく属につき”1産地1種”が普通ですが、系統の違う2種が混生する例はいくつか知られるのです。しかしまさか私がその現場に居合わせるとは思いませんでした。

交尾器を見ると本種はヌクミに近そうな気もしますが、ヤツクサ感もあります。そのため種の同定は保留にしておきますが、2種が混生する貴重な記録となるでしょう。

 

 

上手く波に乗ることができ、目的の2種+αのチビゴミを採集することができました。これで岐阜県Trechiama、8種中6種制覇です!複眼が発達しているオンタケナガチビゴミムシT. lewisiと、後々書きますが採集がほぼ不可能と思われるイブキメクラチビゴミムシT. spinosusを除けば全種コンプリートしたことになります!長い道のりでした、次は空白地帯を埋めるために頑張ります!とりあえずその一歩目として今書いている論文を書きあげます!

 

引用・参考文献

・Ueno, S.-I., 1980. The anophthalmic trichinae beetles of the group of Trechiama ohshimai. Bull. Natn. Sci. Mus., Tokyo, (A), 6: 195-274.

・Ueno, S.-I., 1988. Parapatric occurrence of anophyhalmic Trechiama (Coleoptera, Trechinae) in Central Japan. J. speleol. Soc. Japan, 13: 1-13.

・奥田好秀, 2014. 【短報】岐阜県西部におけるチビゴミムシの記録. さやばねニューシリーズ, 15: 44.

何度目の正直?

2021/9/19

今日は、記載中のTrechiamaに最も近縁であると思われる某メクラチビゴミムシを採集しに行きました。ここもトウゲノと同様に昔から何度もチャレンジしては敗北を続けていた場所です。

そこで、今回は前の教訓に習って記載文をしっかり読むことにしました。

すると、本種は2県にまたがって生息するらしく、国土地理院の地形図から詳細な場所を予測することができました。

とりあえず峠を越えてF県側に行ってみます。

予測した場所にはかなり小規模な枯れ沢があり、薄い腐葉土層が局在していました。早速掘ってみると、ムナビロナガゴミムシPterostichus abaciformisやゴモクムシたちが出てきて一見良さげでしたが、結局ここからTrechiamaは採集できませんでした。

 

次に岐阜県側を攻めます。

しかし、水量が多すぎたり、腐葉土や粘土が少なすぎたりとあまり良い場所がありません。

ようやく微妙な沢を発見したので、岸に溜まっている堆積物を少しずつ掻きだしてみます。

すると見覚えのある虫が!

・禁禁禁禁禁

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専門家の方に記載していただいている、とある新種なのですが、まさかここから出てくるとは思ってもいませんでした!(追加標本として既に送付済です)

 

そんなこんなでヘッドライトの充電もそろそろ切れかけてきた時、ふと倒木が倒れまくっている峡谷を発見しました。

吸い込まれるように峡谷に降り、すぐさま掘り始めます。

粘土質で適度に石もありイイ感じです。

探し始めて5分ほど、手のひらサイズの手ごろな石を見つけてひっくり返します。すると空隙から赤い虫が!!!

・ヌクミメクラチビゴミムシTrechiama (Trechiamagrandicollis S. Uéno, 1980 

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やっと出ました!ようやくです!

個体数は少ないようで追加は採れませんでしたが、♂だったので満足です。

 

そして帰り際に山中で微妙な池を見つけ、網で岸の植物を掬ってみると…

・マルツヤマグソコガネAphodius (Sinodiapterna) troitzkyi Jacobson, [1898]

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体型が異常なまでに丸っこく、小楯板が異常にデカい!

正直言って現地では「マグソコガネだなあ…ずんぐりしててかわいいなあ…」くらいにしか思わなかったのですが、調べてみると生体写真がほとんど見当たらない珍しい種だったようです。嬉しい!

 

兎にも角にも論文に必要なTrechiama2種がそろいました。論文書きます!

 

参考文献

・Ueno, S.-I., 1980. The anophthalmic trichinae beetles of the group of Trechiama ohshimai. Bull. Natn. Sci. Mus., Tokyo, (A), 6: 195-274.

登山採集

2021/9/12

今日はトウゲノメクラチビゴミムシの追加を得るために、論文に記載されている第2ロカリティーに行ってきました。

結果から言うと、確かに採れました・・・が、タイプロカリティーのほうがかなり楽でした。

第2は、まず到着するのに登山道を30分ほど歩かなければなりません。私のような軟弱者にはかなりキツかったです(タイプ産地は10分ほど)。

また、あまりにも落ち葉が溜まりすぎていて、確かにポテンシャルは計り知れないのですが、どこにいるかも分からないので、おそらく実際の半分以上は見逃しているでしょう。集中力の消費が甚だしいです。

そして、こちら側は登山道が整備されているおかげで登山客も多く、そちらへの対応(挨拶や説明など)も大変でした。

ただ、久々のちゃんとした登山もなかなか楽しかったです。

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この後タイプロカリティーにも立ち寄り、数匹の追加を得て帰路に着きました。

しかし、一箇所だけ気になる場所がありました。

それは、春にトクヤマメクラ狙いでトラップを仕掛けた某枯れ沢です。その時は全てのトラップでムカデしか入らず惨敗しましたが、チビゴミの旬たる今アタックすればイケるのでは?と思い、立ち寄ってみました。

すると、春には気づきませんでしたが、枯れ沢の脇に良い腐葉土が溜まっているではありませんか。これは!と思い、少しずつ慎重に漁ってみます。

ああああああああああ!!!

トクヤマメクラチビゴミムシTrechiama (Trechiamamisawai Matsui & Matsui, 2010

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出ました!ずっと探し続けていたTrechiamaです!

ただし、私は本種とネオT. graciliorとの違いはあまり理解できておらず、本当に交尾器片からのみで同定できるのか疑問で、採集場所のみで判断しているので少しモヤモヤしています。

まあ暫定的ではありますが、これで岐阜県産Trechiama、8種中3種制覇です!

 

 

今日は新たなTrechiamaが採れて良かったのですが、トラップを仕掛けた真横で採れたというのは私の仕掛け能力がいかに乏しいか、ということであり、複雑な心境です 笑

 

参考文献

・Ueno, S.-I., 1980. The anophthalmic trichinae beetles of the group of Trechiama ohshimai. Bull. Natn. Sci. Mus., Tokyo, (A), 6: 195-274.

・Ueno, S.-I., 1988. Parapatric occurrence of anophyhalmic Trechiama (Coleoptera, Trechinae) in Central Japan. J. speleol. Soc. Japan, 13: 1-13.

・Matsui, M. & M. Matsui, 2010. A new anophthalmic Trechiama (Coleoptera, Trechinae) from Gifu Prefecture, Central Japan. Elytra, 38(2): 285-290.

三度目の正直

2021/9/5

ちょっと本気で論文が進まないことに焦りを感じてきたので、もう一度某Trechiamaの記載論文をもう一度読み返してみます。

>>>The type locality of 〇〇 is the head of a steep narrow gully at the north-western side of the □□-tôge …… . The gully is very wet and filled with rock debris mingled with dead leaves. ……

なるほどなるほど。

…ん?まさか単純に峠の北西側ということか?

ということは………まさかあそこか!?

ようやく記載文の謎が解けました。まさかあの場所だったとは…

 

ということで車でとある地点まで行き、徒歩でどんどん歩いていきます。

すると300mほど歩いたところで、水が全く無い超絶急斜面のgullyを見つけました。

あまりにも急すぎて、本当にここなのだろうか?と半信半疑になりながらも、両脇の壁に足をかけながら少し登って落ち葉を除けます。想像以上に落ち葉が堆積しています。

落ち葉の下には腐葉土に埋まった石があったため、とりあえず引っこ抜いてみます。

!!!!!

・トウゲノメクラチビゴミムシ Trechiama dispar

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あまりにも急なことに驚き、気付いた時には容器の中にヤツがいました!

前回のやつとは違い、体色も濃ければ痕跡眼もはっきりとしています。

交尾器を抜く前に言うとまた化けそうですが、これはさすがに本命でしょう!

やっぱり記載文を読み込むことは大切ですね。まあ今まで得た地理感が謎解きの手助けになったので、これまでの採集も無駄ではなかったと思っておきます。

ただ、これで論文が進まない言い訳ができなくなったので、絶対に今年中に書きあげます!

(あぁ、言ってしまった…笑)

 

 

参考文献

・上野俊一, 1988, Parapatric Occurrence of Anophthalmic Trechiama (Coleoptera, Trechinae) in Central Japan, Journal of the speleological Society of Japan, 13: 1-13.