地下性昆虫まとめ(2021,X~2022,II)
昨年末に結局ブログを更新できなかったので、遅ればせながら前回の更新から今までに見た地下性生物のダイジェストです。
2021/10/02
最近探し回っている某Trechiamaを求めて相変わらず某山地へ。道なき道を2時間歩き続け染み出しを掘ってみると、ものすごい密度でケムネチビゴミムシがいたため、期待を持って深く深くに掘っていくと…
・タカオチビゴミムシAgonotrechus paradoxus (Ueno, 1981)
探していたTrechiamaではなかったのか、という絶望はありましたが、かなり貴重な記録だということが分かったので、現在報文を書いています。今年中にはどこかに投稿します!
2021/10/25
前日の採集で同行していただいた方々との話に上がった、某マイナー洞窟へ。以前にも行って全く生物感はありませんでしたが、「いない」という証明も必要。洞内の石という石をめくっていくと、一つの支洞の石下に赤い虫が鎮座していました。
・チンチロメクラチビゴミムシKurasawatrechus chinchiro S. Ueno, 1974
全然期待していなかったので、思いがけず採れてしまってとても嬉しかったです。
そして、近くにあったゴミの裏に、小さな小さな赤い粒が…
・メナシタマキノコムシ類
日本ではメナシタマキノコムシ属Typhlocolenis に属す3種が記録されているようですが、この洞窟では記録がありません。そこで後日追加個体を採集して解剖したところ、案の定ヤバい結果が出たので専門家の元へ送りました。結果が楽しみです。
2021/11/3・6
この日は某文献でJujiroaの記録がある洞窟へ。
まずは入口付近から大量のメクラヨコエビたちが出迎えてくれます。
・推定キョウトメクラヨコエビPseudocrangonyx kyotonis Akatsuka & Komai, 1922
おそらく写真の個体は交尾前ガードをしているものだと思われます。ヨコエビの類は、脱皮直後にしか産卵しないメスを、オスが交尾前に抱きかかえてガードし、メスの脱皮後に交尾するらしいのです。
そして道の端にあった木の板をどけてみると…
・ヨロイダニ科?Labidostomatidae gen. sp.
ダニの多様性は本当にすごいもので、最近の自分的急上昇生物です。
そして出口に近付き諦めかけたその時!
・ヒゲナガホラヒラタゴミムシJujiroa imunada S.Ueno, 1955
あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁかっこいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ
これはもう言うことがありませんね。至高の地下生物です。
2021/11/15
朝に立ち寄った洞窟が芳しくなかったので、赤ダルマガムシを探しに某山へ。
沢は有機物が多すぎてダルマガムシ向けではなく、山も針葉樹ばかりだったが、一部にあった良さげなガレ場で何の気も無しに掘っていると、赤い虫が走り出した!
・タカオチビゴミムシAgonotrechus paradoxus (S. Ueno, 1981)
カッコイイのは言わずもがな、我が県では初記録であるので大変嬉しかったです。
そしてタカオチビゴミムシの追加を狙って掘り進めると、ゆっくり歩く、小さくて赤い虫が…
・Kurasawatrechus sp.
この周辺は本属の記録が全く無いため、未記載の可能性がとても高いです。
2021/12/26
この日は親戚の家に行った帰りに非観光洞窟へ。
越冬に来ている生物ばかりであまり洞窟性生物が見られない中、ふと石下の白い物体が気になりました。よく分からないけれどヤバそうであるので撮影してみると…
・無眼ベッコウマイマイ類
面白い生物がいるものだなあというくらいに思って専門家の方に相談させていただくと、更なる専門家を紹介され、サンプルを郵送。すると、あまり詳細については書けないが、驚くべき結果が返ってきた。現在、報文を執筆中。
2022/1/1
私が抱えている未記載のKurasawatrechusに近縁であると思われる某種を採集するため、何度目かのアタック。
すると、前日の雪で地下水位が上がっており、普段は乾燥しきっている洞内が湿潤に。
そこで虱潰しに小石を除けていくと…
・某メクラチビゴミムシKurasawatrechus spelaeus S. Ueno, 1958
Kurasawaの中でもかなり大きくてカッコいい。新年早々幸先がよい。
2022/1/15
今日はとあるチビゴミ戦士のご案内で某洞窟へ。
まず洞口を探す時点で迷子になりそうな道なき道を進まねばならず、洞内も一歩間違えれば大怪我をしそうな急斜面。
しかし地底に着くと水平な砂利の層が広がっており、石を引き抜きながら生物を観察してみると、そこには小さな小さな赤い生物が…
・リュウガシメクラチビゴミムシKurasawatrechus ryugashiensis S. Uéno, 1988
普段地元で見るKurasawaよりかなり小さく、何度か採り逃がしてしまうほどだったが、これはこれで可愛い。
2022/2/13
いくつかの課題を残している某洞窟へ。
すると、見かけないクモが石の下に…
・ホラヒメグモ科
なぜか分からないが、採集しておかないと後で後悔する気がしたので採集しておいたところ、Twitterで専門家の方からレスポンスをいただきお送りする流れに。その結果、まさかの未記載種だったようで、こちらも出版が待ち遠しい。
参考文献
・Hoshina H.& S. J. Park, 2020. New record of the genus Typhlocolenis Hoshina, 2008 (Coleoptera, Leiodidae) from South Korea with a key to the species. ZooKeys 991: 129–136.
・富川光・森野浩, 2012. 日本産ヨコエビ類の分類と見分け方. タクサ 日本動物分類学会誌, 32: 39-51.
・Ueno, S.-I., 1980. The anophthalmic trichinae beetles of the group of Trechiama ohshimai. Bull. Natn. Sci. Mus., Tokyo, (A), 6: 195–274.
・Uéno, S.-I., 1981. A remarkable new trechinae beetle found in a superficial subterranean habitat near Tokyo, Central Japan. J. speleol Soc. Japan, 6: 1-10.
・Uéno, S.-I., 1974. The Kurasawatrechus (Coleoptera, Trechinae) of the Mino Highlands and the Adjacent Areas, Central Japan. Bull. Natn. Sci. Mus. Tokyo, 17(3): 193-204.