地下湿地定期便

地下や湿地の生物をただただ愛でる日記

狙いのあの子

2021/3/27

 本日は某山固有のTrechiamaメクラチビゴミムシを探しに県境付近に行ってきました。

 実はその種、とんでもなくたちの悪い洞窟に生息していてタイプ産地での採集はまず不可能なのです。さらに周囲に沢が無い&そもそも立入禁止であることも重なって、採集できる場所がかなり限られています。そこで3週間前に、可能性が少しでもありそうな場所全てにトラップを仕掛けたのですが、今日掘り出してみると…ムカデとヒラタゴミムシしか入っていませんでした。

 ということはこの種の生存は絶望的ということです。ただし、諸事情でトラップを仕掛けることができていない沢が一箇所だけあるのでそちらに期待します。

 しかし今日はもうその沢へ行く気力が無かったので、路線変更で水生昆虫を狙って、まずは山中の染み出しへ。すると、石の下に黒い物体が…

・キベリヒラタガムシ Enochrus japonicus

f:id:KOPEMUSHI:20210327225929j:plain

とにかくかわいい染み出しの常連客。しかし写真の左の個体、あまりにも大きく見えたので測定してみると、なんと体長が6mmを超えているではありませんか!聖書には5.1~5.5mmと載っているので驚きました。別種の可能性を疑いましたが、採取した環境やもう片方の個体と照らし合わせると、おそらくキベリの特大個体でしょう。

 そして谷に造成されていた池を少し掬ってみると、大量のオタマジャクシに紛れて小さなゲンゴロウが…

・コツブゲンゴロウ Noterus japonicus

f:id:KOPEMUSHI:20210327230048j:plainf:id:KOPEMUSHI:20210327230155j:plain

体の前方が大きい体型が可愛いですね。(写真左が♂で、右が♀です。)

この池は植物も豊富でオタマジャクシや貝も大量だったのですが、浅すぎるのと、水位が不安定であることもあってあまり水生昆虫は多くないようです。

 そして何かの影を察知して後ろを振り向くと、毛玉がホバリングしていました…

・ビロウドツリアブ Bombylius major

f:id:KOPEMUSHI:20210327230234j:plain

みんな大好き空飛ぶ毛玉です。さすがに素人にはホバリング写真は無理でした 笑

 

 今日は水生昆虫と触れあえて楽しかったですが、とりあえずあのTrechiamaを探し出さないと記載が前に進まないので近日中に必ず再挑戦します!

 

参考文献

・中島淳ほか,「ネイチャーガイド日本の水生昆虫」, 文一総合出版, 2020

JIMOTO

2021/3/26

 今日は久々にかなり暇な平日だったので、自転車で地元の河原を走ってきました。

 昔の雑木林が広がっていたイメージで行ったのですが、数年ぶりに行ったら綺麗さっぱり無くなっていて、「環境整備」と称してなぜかワンドがいくつか作られていました。

 よくわからないですが、一応かなりよさげな湿地になっていたので許しましょう 笑。

 しかしまだ工事中でワンドには入れなかったので、少し通り過ぎたところで川に近付く横道に入りました。すると素晴らしい湿地が!

f:id:KOPEMUSHI:20210326223408j:plain

掬ってみると…

・マダラコガシラミズムシHaliplus sharpi

f:id:KOPEMUSHI:20210326223432j:plain

醸し出す高貴なオーラがいつ見てもイイですねぇ

・コモンシジミガムシLaccobius oscillans

f:id:KOPEMUSHI:20210326223459j:plain

最近は河川敷の常連です

 サカマキガイがウジャウジャいて不安ですが、マダラコガシラが見れただけ安心ですね。

 そして辺りを見回してみると良さそうな砂浜があったので降りると、水中で何かがウジャウジャと大量発生している!カメラで撮影して拡大してみると…

・コチビミズムシMicronecta guttata

f:id:KOPEMUSHI:20210326223527j:plain

幼虫がお祭り騒ぎになっていました。たしかに聖書を見ると、「生息地での個体数は極めて多い」とありますが、まさかここまでとは。

 そして画面を見ていると視界を横切る甲虫が…

・ドウイロミズギワゴミムシBembidion (Bracteonstenoderum stenoderum

f:id:KOPEMUSHI:20210326223601j:plain

エリトラにある4つの凹陥と、なによりこの体型が特徴的なゴミムシです。しかし本当にちょこまか動いてよく飛びますね、撮影者泣かせの虫。

 次に少し歩いて高架下に行くと、石がゴロゴロ落ちている場所がありました。

f:id:KOPEMUSHI:20210326224215j:plain

いくつかめくってみると…

・カワチマルクビゴミムシNebria lewisi

f:id:KOPEMUSHI:20210326223626j:plain

以前わざわざ遠くに行って探した子がまさか自転車で10分の場所にいるとは!複雑な心境です…

 そしてついでに…

・イセノナミマイマイEuhadra eoa communisiformis

f:id:KOPEMUSHI:20210326223658j:plain

タツムリはよくわかりませんがとりあえず美しいです。

 

 今回は地元の力を垣間見たような気がします。何度も通って底力を引き出したいです。

 

参考文献

・中島淳ほか,「ネイチャーガイド 日本の水生昆虫」, 文一総合出版, 2020

・武田晋一・西浩孝, 「かたつむりハンドブック」, 文一総合出版, 2017

・「新訂 原色昆虫大図鑑II 甲虫編」, 北隆館, 2007

MY BIOTOPE

 私には大切なフィールドがいくつかありますが、その中でも特に大事な場所が一箇所あります。それは自分で作ったビオトープです。

 私の水生昆虫好きは昔から親戚の内でも有名だったのですが、中学生の時、そのことを強く気にかけてくださった方が「自分の土地で池を掘ってみたら?」と言ってくださり、15×25mほどの土地を借りることができたのです。

 最初は小さな水溜まり程度しかありませんでしたが、暇を見つけては足繫く通って掘削と草むしりを続け、7年目に入った現在では立派なビオトープになっています。

 一度しか観察できていない種(*)を含め、現在までに確認できた水生昆虫は

クロゲンゴロウ*・ハイイロゲンゴロウ・オオヒメゲンゴロウ・クロズマメゲンゴロウ・マメゲンゴロウ・コシマゲンゴロウ・ホソセスジゲンゴロウ・チビゲンゴロウ・コガムシ・ヒメガムシ・Berosus sp*・キイロヒラタガムシ・スジヒラタガムシ・チビヒラタガムシ・マダラコガシラミズムシ*・コガシラミズムシ・タガメコオイムシタイコウチ・ヒメタイコウチ*・ミズカマキリSigara sp・マツモムシ・コマツモムシ・マルミズムシ・Microvelia sp

以上の722種です。

 ビオトープを作ってもお金になるわけでもなく誰からも感謝されるわけではありませんが、ゼロから生き物が増えていくのを見ると本当に励まされます。いつかゲンゴロウが来てくれることを夢見てこれからも整備を頑張ります!

f:id:KOPEMUSHI:20210323154152j:plain

f:id:KOPEMUSHI:20210323154217j:plainf:id:KOPEMUSHI:20210323154423j:plain

 

参考文献

・中島淳ほか,「ネイチャーガイド 日本の水生昆虫」, 文一総合出版, 2020

赤くて刺す魚

2021/3/22

 最近は河川敷に行くと淀みで昆虫ばかり探していましたが、久々に魚が見たいという欲求に駆られ、常に水量が安定している県内の某川に行ってきました。しかし前日の雨で川はかなり増水して流れも速く、危険と隣り合わせの観察でした。

 安全そうな場所を探していると、比較的流れのゆるやかなところにイイ感じに石が積み上がっているではありませんか!そこで下流に網を構えながらガラガラと崩してみると、何かが網に入りました!こ、これは…

・アカザ Liobagrus reini

f:id:KOPEMUSHI:20210323143631j:plain

冒頭から素晴らしくキュートな子が来てくれました!絶妙な体型と、控えめで上品な赤色、何本もの長い髭が最高に可愛いです!

そしてしばらく透明なケースに入れてひたすらに愛でていると、右胸びれになにかが付着していることに気付きました。暴れても離れないところを見ると、ゴミではなく、何かに寄生されているようです。現地ではよく分からなかったため、自宅に持ち帰って撮影してみました。

f:id:KOPEMUSHI:20210323143720j:plainf:id:KOPEMUSHI:20210323143743j:plain

5mm前後で微妙な模様があります。当初私はイカリムシの類だと思ったのですが、それにしてはなんだか柔らかそうだなあと思いネットに投稿してみると、ウオビル科というヒルの仲間ではないかとご教授いただきました。どうやらウオビル科は淡水~海水に生息する魚類やカニに寄生するらしく、安易な同定はやめておいたほうがよさそうです。

 

 その他にもヨシノボリやシジミガムシ類、ミズギワゴミムシ類も多く、とても楽しい採集でした。

 

参考文献

・増補改訂 山渓ハンディ図鑑15「日本の淡水魚」, 山と渓谷社, 2019

・長澤和也ほか,2008, 日本産ウオビル科およびエラビル科ヒル類の目録(1895-2008年)

水中に挑みし者

2021/3/20

 今日はお彼岸ということで県内の親戚の家を廻り、空いた半日でまたまた河川敷に行ってきました。目的は特に無く、キボシツブゲンゴロウやダルマガムシでも見られれば嬉しいなぁ、というゆるい感じで河原を歩きます。

 すると目の前を仕切りに何かが飛び交い、しまいには手に当たるものまで出てきました。飛ばさないように着地点にそっと近づくと…

・コニワハンミョウ Cicindela transbaicalica

f:id:KOPEMUSHI:20210323131358j:plain

河原の砂地に生息する美しいハンミョウです。ハンミョウは子供の頃から追いかけっこをする旧友なので、見かけると懐かしい気持ちになりますね。(この個体は体長が16mmもあって、同所的に生息するアイヌC. gemmata ainoを疑いましたが、紋様はコニワのそれに近いため今回の判断としました。)

 

 結局この河川敷では他にコモンシジミガムシが1匹見られたのみだったため、数百m離れた河川敷に移動することにしました。ここは小河川との合流点なので変わった生物も見られるのではないか、と期待して水底をガサガサすると、見慣れないハチが網に入っていました。溺れたのかな、と思って近づけてみると、背中に突き出た鋭い棘と腰のくびれ…

・ミズバチ属 Agriotypus sp 

ミヤマミズバチ Agriotypus silvestris

f:id:KOPEMUSHI:20210323131449j:plainf:id:KOPEMUSHI:20210323131532j:plain

これがミズバチか!スーパーかっこいい!

彼らのメスは川に入水してトビケラ類に寄生するそうですが、この川はかなりの流量がありますし、魚類からの捕食もあるので産卵するのも命懸けでしょう。

またミズバチ属には複数の種が属していて日本ではミズバチA. gracilisとミヤマミズバチA. silvestrisが生息し、両者は頭盾の形で区別できるようです( http://ci.nii.ac.jp/naid/110004022293 )。

→[訂正 4/1] 頭盾が丸みを帯びていることからミヤマミズバチA. silvestrisと同定しました。

 

 この河川も改修工事が進んでコンクリートで護岸されてしまった場所もありますが、このような貴重な生物たちが頑張って生き延びてくれることを願うばかりです。

 

参考資料

https://sites.google.com/site/ichneumonidjp/home/agriotypinae/agriotypus

・Konishi K & Aoyagi M, 1994, A new species of the genus Agriotypus (Hymenoptera, Ichneumonidae) from Japan

・「新訂 原色昆虫大図鑑II 甲虫編」, 北隆館, 2007

河川敷

 今週もまたまた県内の河川敷へ行ってまいりました。狙いはマルクビゴミムシ類とダルマガムシ類です。

 先週より少し上流に狙いを定め、石起こしをしながら川べりをとにかく歩き回りました。

 

 とにかく大量のカワチゴミムシ、ヒメカワチゴミムシ、ノグチアオゴミムシが走り出す中、異彩を放つゴミムシが…

・カワチマルクビゴミムシ Nebria lewisi

f:id:KOPEMUSHI:20210317135325j:plain

自身初の河川性マルクビゴミムシ!憧れていた通りの素晴らしい色彩と形態!ようやく三人衆のうち一角を落とせました。他の2種とは基本的に頭のツートンカラーで区別できるらしいです。

 

 そして水際ギリギリの石をめくると突然何かが飛び出した!

カジカガエル Buergeria buergeri

f:id:KOPEMUSHI:20210317135415j:plain

色は地味ですが、見れば見るほど艶やかで魅力的なカエルです。

カジカガエルBuergeriaはどうやら

  1. カジカガエル B. buergeri 本州・四国・九州・五島列島
  2. リュウキュウカジカガエル B. japonica琉球(トカラ)・中央琉球(沖縄諸島)
  3. ヤエヤマカジカガエル B. choui琉球(西表島石垣島)・台湾北部
  4. 和名不明 B. robusta 台湾南部
  5. 和名不明 B. oxycephala 中国(海南島)

の5種で構成されるようです。一応形態的にも区別できるようなので、ぜひ全種見てみたいものです。

 

 続いて河川敷の脇に轍に水が溜まった湿地を発見したため少し掬ってみると…

・ヒメシジミガムシ Laccobius fragilis

f:id:KOPEMUSHI:20210317135502j:plainf:id:KOPEMUSHI:20210317135533j:plain
体長は2.0mmと極小個体であり、チビシジミガムシL. roseicepsと見間違えたほど。同定は暫定的なものなので、後々交尾器を抜いて確認するつもりです。

・ヤマトゴマフガムシ Berosus japonicas

f:id:KOPEMUSHI:20210317135623j:plain

体長が無印ゴマフガムシB. punctipennisより小さいこと、及び間室の点刻が一列(ゴマフは二列)であることから区別できるようです。

 

 そして、少し下流の河川敷の野原にできていた大規模な水溜まりを掬うと、ゲンゴロウ類に混じってなぜか陸生の甲虫が…

・コケシマグソコガネ(?) Myrhessus samurai

f:id:KOPEMUSHI:20210317135650j:plain

しかも掬うごとに必ずと言ってよいほど網に入ってくる。水生昆虫でもないのになぜだろうと思っていたら、ネットで「イネ科植物の根際に生息していた個体が、雨後誤って溺れた可能性が高い」と教えていただきました。見ていると動きはかなり緩慢なようなので、確かに急な浸水からは逃げられないでしょうね。前日は雨でしたし、間違いなさそうです。

 

 今回も自身初の生き物たちを沢山拝むことができました。この調子でどうにか県内の河川で、キボシツブゲンゴロウ・キボシケシゲンゴロウオナガミズスマシ類・トゲナベブタムシ・カワネジガイを見つけたいと思います。

 

参考文献

・川井信矢ほか,「日本産コガネムシ上科図説 第1巻 食糞群」, 昆虫文献六本脚, 2008

・中島淳ほか,「ネイチャーガイド 日本の水生昆虫」, 文一総合出版, 2020

https://ja.wikipedia.org/wiki/カジカガエル

https://ja.wikipedia.org/wiki/カジカガエル

https://en.wikipedia.org/wiki/Buergeria_robusta

https://en.wikipedia.org/wiki/Buergeria_oxycephala

・M. MATSUI & A. TOMINAGA, 2020, A New Species of Buergeria From the Southern Ryukyus and Northwestern Taiwan (Amphibia: Rhacophoridae)

啓蟄後の河川敷

 啓蟄が過ぎた一昨日、某川下流の河川敷の水辺を散策してきました。

 目的は様々ありましたが、主にセスジゲンゴロウ属とダルマガムシ科でした。

 堤防に沿って下流に近付くにつれて河川敷も広くなるのですが、草や木が密集していて川べりには近付けそうもありません。そこでそろそろ引き返して河岸を変えとした時、工事で平坦にされた部分にいくつかの小規模な湿地があるのが見えました。

「昨日の夜、雨降ってたし一時的なものかなぁ」

そう思いながらも気になって下りてみると、意外と深さもあってしっかりした湿地。

f:id:KOPEMUSHI:20210310162605j:plain

f:id:KOPEMUSHI:20210310162731j:plain

 早速、金魚網でひと掬いすると、見慣れた小さなゲンゴロウの姿が…

・テラニシセスジゲンゴロウ Copelatus teranishii

f:id:KOPEMUSHI:20210310161215j:plain

やったー!!!

もちろん普通種ではあるのですが美麗な種であることには変わりなく、いつ見ても癒されます。

 

 次に網に入ったのは大量の黒いゲンゴロウ

・ホソセスジゲンゴロウ Copelatus weymarni

f:id:KOPEMUSHI:20210310161357j:plain

昔は網に入った本種を見て「なんて小さいのだろうか!」と思っていましたが、今では「こんなにデカかったっけ?」と思うようになりました。皆さんもご経験があるかもしれません。こちらもまたド普通種ですが、普通種が大量に生息する環境は素晴らしいです。

 

 お次はホソセスジゲンゴロウの影に隠れてうごめいていた丸いムシ…

・キイロヒラタガムシ Enochrus simulans

f:id:KOPEMUSHI:20210310161459j:plain

これまた淡い色と丸っこい体が美しいガムシ。植物の上を歩く姿も可愛らしい。

 

 この3種だけかと思われましたが、何度も網を入れるうちに一匹だけ違う種が…

・チビヒラタガムシ Enochrus esuriens

f:id:KOPEMUSHI:20210310161629j:plain

小さくてかわいい。(まだ雰囲気だけでウスイロツヤヒラタガムシA. ishiharaiと区別できていないので要精査。)

 

 そして、貝には詳しくない私ですが、その大きさで一目で分かった貝が…

・クルマヒラマキガイ Hippeutis cantori

f:id:KOPEMUSHI:20210310162114j:plainf:id:KOPEMUSHI:20210310162236j:plain

6mmという破格の大きさと、横から見た時に殻が台形であることが特徴の貝です。この種は環境省RDBで絶滅危惧II類とされていて、岐阜県では生息が確認されていません。某貝戦士にも訊ねてみたのですが、今のところ私の記録が県の初記録となりそうです。しかし県内の個体は帰化個体の可能性が高いらしく、要調査です。

 

 やはり岐阜県にはまだまだ貴重な環境が残っています。今のうちにその全貌を明らかにしておかなければなりません。

 

参考文献

・中島淳ほか,「ネイチャーガイド 日本の水生昆虫」, 文一総合出版, 2020