マスカット県遠征
2021/4/3
今回は某依頼を受けて岡山に有眼チビゴミムシを採集しに行きました。向かうは道もない森の中にある2階立の洞窟です。
片道5時間、到着したのはまだ白んでもいない早朝でしたが、実は以前訪れていたので楽々辿り着くことができました。
一階から入洞し、大ホールから分かれる支洞の一つを進みます。すると地底湖が姿を現し、その付近には多くの岩が転がっています。それを一つ一つめくっていくと…
・タイシャクナガチビゴミムシ阿哲亜種 Trechiama yokoyamai ishikawai
いましたいました、今回の狙いの虫です。チビゴミムシの中では目の発達したグループに属し、しっかりとした複眼を持っています。とても大きくてカッコいい種です。チビゴミムシにしては比較的広い範囲に生息していて、どうやら分類が混乱しているようです。数年後にはシノニマイズされたりしているかもしれません。
そしてチビゴミムシがいた岩の裏に小さなクモがいました…
・サラグモ科 Linyphiidae sp
Twitterに投入にてみたところ、スーパー蜘蛛戦士の方からPorrhomma属のようだとご指摘いただきました。国内に洞窟性の種は愛媛のラカンホラアナサラグモP. rakanumと栃木のホラアナサラグモP. ohkawaiがいるらしく、兵庫でホラアナサラグモが記録されていることから今回の種はその可能性もあるとのことです。興味深い!
次に地底湖の底を見ていると、白い生物が無数に歩き回っているではありませんか…
・メクラヨコエビ属 Pseudocrangonyx sp
透き通るような白が美しい至高の地下生物です。「日本産淡水ヨコエビ類の分類と見分け方」(2012)によると、岡山には第7胸節に刺毛を持つシコクメクラヨコエビと、第4~7胸節に刺毛を持つキョウトメクラヨコエビが分布するらしいですが、今回の個体は全て胸節に一切の刺毛を持ちません。そこでこちらもTwitterでスーパーヨコエビ戦士に教えていただいたところ、実は県内で2種の未記載種が記録されているらしいのですが、いずれの洞窟とも場所が大きくずれている上に、メクラヨコエビの分類は遅々として進んでいないらしいので詳細は不明です。
洞窟を十分楽しんだところで外に出てみると、いつの間にか朝陽が差していました。そこで地図上で目を付けていた農業用水路に行ってみます。地図で分かるほど水草が茂る素晴らしい水路で、上から見るだけで沢山の魚影が見えます。勢いよく掬うと…
・ヤマトシマドジョウ Cobitis matsubarai
言わずもがな美しいドジョウです。
・ドジョウ Misgurnus anguillicaudatus
私の近所でも見られる普通種ですが、量がとても多く素晴らしいです。
そして水草の根元をガサガサしてみると…
・コオイムシ Appasus japonicus
子負いコオイムシを見られてうれしいです。我が県ではそこそこ見られますが、全国的に減少しているようで、他県で見たのは初めてです。このような場所が残っている限りは安心ですね。他にもミズカマキリやヒメゲンゴロウ、コガムシが見られました。
そんなこんなでそろそろ帰宅時間になったので高速に乗り、途中で少し降りて最後に琵琶湖で少し水生昆虫を探しました。かなり観光地化&護岸工事が進んでいてあまり探せる場所がありませんでしたが、なんとか場所を見つけて掬うと…
・ルイスヒラタガムシHelochares pallens
数の少ない種ではないようですが、自身初採集です。綺麗ですねぇ。
岐阜県はまだまだチビゴミシーズンに入っておらず、今年に入ってチビゴミ自体出会えていなかったので今回のミニ遠征はとても楽しかったです。なにより依頼に応えることができて安心しました。このあと諸処理をして某大学の研究室に郵送します。研究に役立てるといいなぁ。
参考文献
・中島淳ほか, 「ネイチャーガイド 日本の水生昆虫」, 文一総合出版, 2020
・富川光・森野浩, 2012, 日本産淡水ヨコエビ類の分類と見分け方
・山本一幸 2017. 兵庫県のクモ類分布資料 上山高原・扇ノ山・霧ヶ滝.ウィ但馬,1:2-3.
・Familles / Linyphiidae Me-P / Porrhomma egeria | Les araignées de Belgique et de France (piwigo.com)
・https://www.pref.okayama.jp/uploaded/life/656841_5702297_misc.pdf